第97回 吉祥寺の街が変わる!?進む再開発事業とは (9)























いせや公園店
 
2012年6月に惜しまれつつ一時閉店していた吉祥寺駅南口の飲食店代表格焼き鳥屋「いせや」。閉店期間中には、約15000年前、人類創世記の旧石器時代にこの場所で肉を焼いて食していたという痕跡が見つかり話題となりました。その「いせや公園店」が2013年9月11日にリニューアルオープンしました。テナント入れ替えが日常茶飯な吉祥寺で店舗継続のリニューアルは珍しいこと。しかもメニュー・価格も旧店舗から据え置きです。


1960年(昭和35年)の開店からはや半世紀、吉祥寺駅南口の変化を見守ってきた、まさに南口のフラッグシップショップたる「いせや」。最近は外国人客の姿もちらほら。そしてこのリニューアルは、2014年を皮切りにここから10年で生じる駅南口の大変化の基点ともいえそうです。

■写真出典:ブログ「居酒屋訪問 / 風景 / 花」さんより
http://archive.kurobuta.jp/photolog/1/2009/03/post-93.html#more

















 










吉祥寺駅周辺の再開発特集の第4回で触れましたが、今から10年間で大きな変化を迎えようとする駅南口。その核になるのが行政主体で進む都市基盤のリニューアル。武蔵野市都市整備部が平成22年3月に策定した『NEXT吉祥寺プロジェクト』によれば駅南口で今後に計画されている事業として、

 ・吉祥寺南口周辺再整備基本構想の検討
 ・南口駅前広場の整備
 ・パークロード(市道第2号線)の再整備
 ・七井橋通り(市道第151号線)の整備
 ・御殿山通り整備基本計画 
 ・武蔵野公会堂のあり方や利活用の検討


等が挙げられています。

■参考:吉祥寺の街が変わる!?進む再開発事業とは (4)  

  http://www.kichijoji-city.com/2013/08/blog-post_18.html























ちなみに

南口駅前広場は2014年までに整備、との計画(2010年時点)でしたが、今回の特集の通り大幅な遅れです。また、このプロジェクトの核となるコンセプトは「回遊性の充実」「安全・安心の向上」の2点。特に前者は「南北骨格軸の整備等」、つまり北口/南口エリア間を「まちあるき」しやすく、という点がポイントです。ちなみに同プランへのパブリックコメントや他の計画を併せ見ると










 






















 ・南口広場は、現在暫定利用の北口広場の活用法と一体で検討する
 ・南口のパークロードは歩行者優先道路化する
  沿道建物の共同ビル化を推進して、土地利用形態をまとめていく
 ・駅南口から井の頭通りを超えるデッキ建設は今後研究する
 ・南口広場と公会堂の一体整備は考えていない
 ・京王吉祥寺駅ビル出入口部分にオープンスペースを設置


となっています。駅北口広場は”暫定利用”である点に注目です。

























さらに注目したいのが丸井吉祥寺店脇から井の頭恩賜公園に抜ける七井橋通り(市道151号線)の再整備。道路拡張と共に「電線地中化、緑の連続性、景観配慮を整備」するとされています。イメージ図やパースが無く仔細不明ながら、プラタナス等が植樹された緑の回廊的な街路、たとえばNYウェストサイド6~70番街のような緑に覆われた街路のイメージでしょうか。





















現在、工事中の駅構内南北自由通路と一体で、サンロードから井の頭恩賜公園までの街の縦軸や歩行者優先化で駅西側への街路整備で、吉祥寺に新しい魅力が生まれることでしょう。これは「回遊性の充実」でもたらされる効果です。

■資料出典:JR東日本


ということで

現在、吉祥寺で進められている行政主導の再開発。しかし何故この規模の開発を進めることができるかと言えば、やはり吉祥寺の立地自治体である武蔵野市の財政の健全さによるところがあります。約600億円強の市歳入のうち約30%が市民税、約24%が固定資産税という市民担税力の高さが大きな支えになっています。この安定的な財政の下に、武蔵野市では「武蔵野市第五期長期計画」(平成24年4月策定)でまちづくりの具体的な方向性を示しています。






















写真:吉祥寺空撮写真(武蔵野市第五期長期計画より)


ただし これらの都市基盤整備だけで吉祥寺の再開発は終わりではありません。都市計画マスタープランで冒頭に触れられているのが「都市間競争の中で、吉祥寺のポジションを維持」すること。2020年の東京オリンピックに向けて外部環境が変化して、都心部商業・観光・交通インフラが更新拡充され、多摩でも立川を中心に成長が見込まれる中で「担税力の担保」たる吉祥寺ブランドを向上し続ける様な「行政に依拠しすぎない自主活動」も求められています。


では、自主活動とはどういったものでしょうか、

たとえば現在、吉祥寺駅周辺には、なんと24の商店会さんがあります。

商店会とはその地域にある商店の地縁的な共助組織を指します( と、最近は言い切れなくなっていますが、ここではそう定義します)。昭和20~30年に産声を上げた商店は、いわば当時の「ベンチャー事業」。一般的にベンチャー企業の経営者同士が力を合わせて頑張ろう、という目的で組織されています。

たとえば丸井吉祥寺店屋上で実施している「吉祥寺南口ふれあい夏祭り」は「吉祥寺南口商店会・吉祥寺パークロード商店会・御殿山幸栄会」の3つの商店会が開催していおり、特に路面店が縦横・小路に広がり、まちあるきの魅力の源泉になっている「吉祥寺のまちづくり」では中心的な存在です。























ただし ベースが地縁的つながりであるが故に、そのメンバーを選択したり、除外したりすることが難しく、また共助組織であるが故に、各商店の行動が統制しにくく、固定された商店であるた故に、街に細分化して広がり競争関係の中で合従連衡が難しかったり、といった問題があります。

そういった問題点を示すのによく挙げられる事例としては「まちあるきマップ」の話。吉祥寺の話ではありませんが、商店会さんが主導してマップを作成すると、会員店舗を全店掲載するという基本姿勢に加え、予算制約で紙面も限られるため、細かくてとても見づらく、実は一番利用したいシニアにとって、とても細かく見にくいマップが出来上がるケースがあります。

それでも過去の経済成長時代、インフラ整備が至上命題とされていた時代は「ハード」中心の共同事業(街路灯設置する等)や「祭事」など目標がはっきりしてリターンが明確な事業で、商店会さんが補助金(たとえば「新・元気を出せ!商店街事業」や「商店街イベント助成」等を上手に使って成果を上げてきました。
























しかし

今求められている「社会貢献」のごとく漠然とした課題、短期の負担とリターンが見えづらく中長期的な対応と資金繰りが求められる課題は、個店主によって捉え方や利害が多様で一丸で対応しにくいのが実情です。またオーナー店舗が減り、賃貸店舗やナショナルチェーン等、立場の異なる商店が増えることで、さらにその課題解決のハードルは高くなります。

かつての吉祥寺では北東西・パークエリアで集客を競いあう時代もありました。しかし都市間競争における吉祥寺ブランドの維持のため商店会さんにも変革が求められています。時には合従連衡、会員商店の絞り込みによる新たな組織への移行(ただユニオンショップではなく、非会員企業も増えていますが)、合同会社化による中長期的資金の留保等も選択肢として考える必要があります。





 


























さらに 

吉祥寺駅周辺で見かける様になったのが外国人観光客の皆さん。バックパッカーもチラホラ見かけますね。2011年のミシュラン・グリーンガイド・ジャポン井の頭恩賜公園は「一つ星(興味深い)」、三鷹の森ジブリ美術館は「二つ星(寄り道する価値がある)」2つのグローバルに通じるコンテンツを商圏に抱える吉祥寺駅南口。また北口の和菓子「小ざさ」「肉のさとう」は世界各地で発刊されている東京ガイドブック上で都心部の超有名店と同列の「東京の名店」として掲載されている等の例も増えています。

■参考:上海で見かけた中国の主要ガイドブック


現在の吉祥寺の観光戦略は武蔵野市観光機構さんが主に担っています。2010年7月に「株式会社エフエムむさしの」の事業部門として設置され、2013年7月に一般社団法人化しました。日本全体では2013年上半期に過去最高の500万人に達した訪日観光客。人気の土産物は「ゆるキャラのぬいぐるみ」「お菓子(白い恋人はアジア圏を席巻中)」「ウォシュレット」「和包丁」等だとか(※)。まさに日本人の作り手発想を超えたモノコトがグローバルコンテンツとして魅力を発する時代、日本人の発想だけでは限界があります。

























別にマーケティング巧者を育成/養成しようという訳ではありません。訪日観光客のまなざしで吉祥寺の街を俯瞰し、その魅力を評価して、それらを着実に発信する仕組みが大切になるということです。そういう観点では同じ準行政機関たる武蔵野市国際交流協会さんとも、商工/文化の垣根を排した柔軟な連携が求められているといえます(既に活動中でしたら申し訳ありませんが)。

さらに行政区画を超えた連携も求められつつあります。たとえば9月22日に井の頭恩賜公園西園で開かれている三鷹国際フェスティバル。主催しているのは財団法人三鷹国際交流協会さん。だから名前に「三鷹」を冠しているんですね。せっかくの良いイベントなのですが。

ミシュラン1つ星の井の頭恩賜公園を巡り、2つの一般社団が縦割りの下で似た業務をこなしているのも不自然な話。かつて昭和30年、武蔵野市議会は合併可決、三鷹市議会でわずか1票差で否決されて止む無く潰えた「三鷹市・武蔵野市合併」という「先人」が歩もうとした道を、その子供・孫世代である私達が改めて局所的にでも模索する機運があっても良いかもしれません。


■写真:三鷹国際フェスティバル (2013年9月22日) 

■参考:2017年に100周年!井の頭恩賜公園特集
http://www.kichijoji-city.com/search/label/%E9%96%8B%E5%9C%92100%E5%91%A8%E5%B9%B4%EF%BC%81%E4%BA%95%E3%81%AE%E9%A0%AD%E5%85%AC%E5%9C%92
 

■テレビ東京「未来世紀ジパング」より

また「周年」コンテンツは、モノコト認知の大きな契機となります。


2017年に開園100周年を迎える井の頭恩賜公園はまさに恰好のタイミングといえるでしょう。「東京市唯一の郊外公園となり以て欧米諸国の其れと相対せんとするに至れり。吾人は大いに本園を愛護し、益々その発展を計り以て理想の郊外公園たらしめんことを期す」と開園時のパンフレットに唄われた同園。グローバルを意識して作られた先駆的な事例といえます。この精神は公園建設の立役者である渋沢栄一氏や井下技師の意志と共に、今の私達もしっかり引き継いで南口周辺の再開発を考えていく必要があるといえるでしょう。



 



















現在、「いのきちさん」といった素晴らしい活動も進められており、井の頭恩賜公園を管理している東京都西部公園整備事務所さん各商店会さん武蔵野市観光機構さんの間で先人の意志を消すことなく、表敬を超えた「実ある関係の充実」を図っていく必要があります。
 

■いのきちさん
  http://www.inokichisan.com/profile-1/
■写真:旧丸井吉祥寺店別館(旧無印良品)

  11月にドンキホーテ吉祥寺店(仮)が開業予定でリニューアル中




 



















ということで、吉祥寺の再開発編はこれで終わります。

吉祥寺の再開発の基本は、やはり武蔵野市の財政であり担税力です。担税力の一端は吉祥寺のブランドに端を発し、その一部は都市間競争の中で今後低下・埋没も懸念されています。

そのために「行政」「商工」「インフラ」「観光」「公園」等の分野で垣根を越えて、2017年の井の頭恩賜公園開園100周年、2020年東京オリンピックに向けて重層/総合的な取り組みが求められています。「キリ穴」と呼ばれたりもしますが、その横通しの発端となる様な先駆的な萌芽も出てきています。そして、それらをしっかり紡ぎながら、歴史や先人の意志を重ねて将来のベクトルを見定めることで、より吉祥寺の街らしい説得力あるプランニングが行えるはずです


さる8月28日に「劇団 前進座」が新しい活動拠点を吉祥寺に開設するという嬉しい発表がありました。2020年の東京オリンピック招致の最終決戦、ブエノスアイレスで開かれたIOC第125次大会で、日本が見せた底力の源泉は「歴史的史実に裏付けされた大義名分」「縦割りの垣根を越えた連携」「細やかなディテール活動と、そのフォローアップ」に有る、という分析があります。


 今回特集した様々な再開発に合わせて、過去から紡がれる歴史と、徐々に醸成されてきた未来への気運の両面を大切にしていきたいですね。


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