第115回 井の頭線再び!かつての「幻の支線計画」を追う(番外編3)




井の頭池に地下鉄

幻の支線計画」にちなんで前回は井の頭線が初期計画段階で今と異なるルートだった点を特集しました。


現在のルートは井の頭池の東端、神田川上流端の先、三角公園付近を通って吉祥寺駅に向かいますが、初期計画では井の頭池の西側、現在の井の頭自然文化園側から池をグルっと周り込むようにして吉祥寺駅に向かうルート。


ルート変更の時期は、井の頭線の生みの親であり、伝説の「井の頭学校」を設立した「渋沢栄一」氏が没する数年前のこと。


昭和恐慌の折、コスト削減を迫られていた帝都電鉄社長の「利光鶴松」氏。一方、大財界人で爵位をもつ「渋沢栄一」氏の井の頭学校をルート上から外し、「コスト削減優先」を決断した経緯には色々な綱引きがありそうです。


さて、今回は未来の話です。


現在、「掻い掘り」で池底をクリーンナップ中の井の頭池ですが、その地下40m付近に地下鉄を通そうという近未来プロジェクトの話です。話の発端は今から14年前の2000年。国の運輸政策について審議される「運輸政策審議会」における大臣答申まで遡ります。






運輸政策審議会


旧運輸省に設置された国務大臣諮問の審議会ですね。現在は国交省の「交通政策審議会」がそのバトンを引き継いでいます。最近では「中央リニア新幹線」のルート選定審議で存在感を発揮していました。


さて、この運輸政策審議会から2000年に答申されたのが『東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画について』という有名な答申。2015年までに整備すべき首都圏の鉄道路線が列記されています。


参考:東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画について

http://www.mlit.go.jp/kisha/oldmot/kisha00/koho00/tosin/kotumo/mokuji_.htm

この計画に明記されたものを例として挙げれば



・東急電鉄目黒線 →南北線・三田線の相互直通運転
・西武電鉄池袋線 →練馬~石神井公園駅間の複々線化
・小田急電鉄   →代々木上原~新百合ヶ丘駅間の複々線化
・京王電鉄    →笹塚~調布駅間の複々線化
・東京メトロ副都心線 建設
・東北縦貫線の建設(上野~東京駅)
・つくばエクスプレスの建設(東京~つくば市)
・成田高速鉄道アクセス線の建設(~成田空港)
・東京都交通局日暮里・舎人ライナーの建設



ということで、概ね全部/一部が実現しつつあります。
























■参考:上記答申 付図2



さて、2000年といえば平成12年、時の政権は故小渕恵三首相の時代。


人口減少社会」という言葉が使われ始めた2005年の5年前。一般的には人口はまだまだ増え続けると信じられていた時代です。


そして、もう1つのキーワードは「大規模小売店立地法」施行


相次ぐ郊外エリアでの大型ショッピングモール出店に歯止めをかけようという法律です。当時は「都市近郊の限界集落」等という言葉は存在せず首都圏人口の外延化がまだまだ進むと思われていました。言い換えれば「都心への鉄道アクセス網の増強は必須!」と言われていた時代だったんですね。


この10数年のパラダイムシフトの大きさを感じさせる話です。





















■参考:大店立地法で配慮すべき事項(仙台市HPより)



さて


この答申に示された計画の一つが「JR京葉線の延伸」。


京葉線とは、皆さんご存知の通り、東京駅と千葉県の蘇我駅を結ぶ路線。これをどのように延伸するかと言えば、その方角は千葉県方面ではなく実は都心方面東京駅から西に都心部を抜け、新宿駅を通り、JR中央線三鷹駅に抜ける地下新線を建設しようという壮大な計画です。


それとセットになっている計画が三鷹駅~立川駅間の複々線化でした。
























JR中央線「連続立体交差化」工事は2010年11月に目途がつき、三鷹駅~立川駅間にあった全18か所の踏切はすべて廃止されました。それとは別に、複々線化とは、高架化された中央線の地下に新線を建設して「複々線(上り2線、下り2線)」にしようという計画です。


延伸された京葉線は地下を抜けて、三鷹駅(の地下駅)で複々線(地下新線)に乗入れ、そのまま立川方面に延伸される計画となります。



















当時の計画ルートを見ると、吉祥寺近辺では(旧)前進座いせや公園店(焼き鳥屋)井の頭池北岸御茶ノ水(神田川源流)井の頭自然文化園(旧井の頭学校)といった馴染み深い吉祥寺のランドマークの地下を通り、三鷹駅方面に抜けるルートです。冒頭の地下鉄とはこの「京葉線延伸」計画のことでした。



しかし2015年といえば来年。未だ計画進捗の噂は耳にしません。


その原因として、この計画が多額の建設コストを要する「大深度地下」を利用している点があります。大深度地下とは、2001年に施行された「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(通称:大深度法)における地下概念で「通常利用されることのない地下奥深くを公共活用しよう」という考え方です。


















参考:国土交通省「大深度地下利用」サイト

     http://www.mlit.go.jp/toshi/daisindo/


より正確には「大深度地下の使用権」を活用するということになります。


使用権であるが故に不動産登記義務も生じず、事業的にみれば表層の土地所有者からの土地買収に絡む諸コストが減る一方、大深度地下ゆえ建設コストが上がる点が難点となります。


参考:不動産登記法

    http://www.kindaika.jp/



JR中央線の連続立体交差は「踏切解消」を目的とした都市整備事業であり、実施主体は「東京都」です。一方、複々線化は「快適なサービスの実現」を目的とした「民間事業者(JR東日本)の設備改良」という法的な位置づけとなり、実施主体は「JR東日本」です。実は両者は似て非なるものなんですね。


つまり、大深度地下での新線建設に耐えうる財務力があるか、採算確保の目途が立つか、すべてはJR東日本の経営判断に委ねられることになります


一方で、その代替案として京葉線~りんかい線~埼京線~中央線をつなげば近い事業効果が得られるのでは、との見方もあります。


成田エクスプレスで新宿駅の中央線→埼京線の配線は実用中りんかい線→京葉線接続も既に先行整備済です。残る問題はりんかい線とJRの料金体系の違い。言い換えれば課題はキセル対策という訳で、それが纏まればすぐに実現可能なんだとか。ただそれが一番の難題らしいですが。














■参考:JR新宿駅配線図(JR中央線→埼京線) JR東日本



何はともあれ、昨今、都心への鉄道アクセス網の意義が変化する中で、事業実現のハードルがますます上がっていることは想像に難くありません。




ということで


特集の「井の頭線の幻の支線」篇、番外編として前回は「幻の本線」そして今回は言わば「幻の競合線?」について触れていきました。


そして、今回触れたのが「大深度地下」の概念


実は大深度地下を使い、吉祥寺の東側2㎞弱の地点に新しい道路が建設されようとしています。その名は「東京外かく環状道路(関越道~東名高速)」。こちらは国交省の道路整備事業。大深度地下の高コストも許容しうる公共事業です。


次回は1回「まとめ」を挟み、その後に、この通称「外環道」の整備状況を見ていくことにしましょう。