第132回 吉祥寺の街なかに、なぜ「空き店舗」が!?その背景に迫る(4)
吉祥寺への出店コスト=店舗賃料
さて、今回のBlog de 吉祥寺の特集は「吉祥寺の空き店舗」にフォーカスしています。前回までは、空き店舗が生じてしまう原因を「売上」と「コスト」の問題に分けて、売上側から考えてきました。つまり「店舗が儲からない理由=売上がたたないから」という事実を、いろいろな側面から確認してきました。
具体的には、通販サイト台頭の影響により、吉祥寺のファッション・アパレル・雑貨を扱う業種が軒並みダメージを受けている様子を明らかにしてきた訳です。
それでは、具体的にどのくらいダメージがあったのでしょうか。
商業統計をみると、2004年から2016年の12年間で、吉祥寺本町のファッション・雑貨市場は、事業所数ベースで約3/4、婦人服は2割減、特にメンズ専門店が減っていて約1/2まで落ち込んでいます。メンズ専門店をみると、直近でも元町通りのTAKA-Qや、サンロードのISEYA west、ダイヤ街のGRAND GLOBAL 吉祥寺店等が閉店しています。
さらにこの12年の間で、ファッション・アパレル市場と吉祥寺の街で起きたイベントを重ねて振り返ってみたいと思います。
2005年 BEAMS EC部門を立ち上げ ★
2007年 ヨドバシ吉祥寺オープン(GU出店)
2009年 ユナイテッド・アローズ ECサイトオープン★
2010年 伊勢丹吉祥寺店 閉店、コピス吉祥寺開業
アトレ吉祥寺店オープン
2011年 ZOZOTOWNのグローバルサイトオープン★
ファッションアプリ「WEAR」配信開始★
2013年 ドン・キホーテ吉祥店オープン
2013年 メルカリ アプリ配信開始★
2014年 ユニクロ吉祥寺店オープン
まさにメーカー・ブランド直販系サイトや、モールアプリ、フリマアプリが続々と立ち上がった時期であることがわかります。
吉祥寺の賃料相場はどうなっているのか
それでは、次に「コスト」面から空き店舗の問題を考えてみたいと思います。まず最初に、吉祥寺駅周辺のお店の賃料相場は、今どのくらいの金額なのでしょうか。
ざっと、それを確認してみましょう。
東急裏 月2万〜4万円/坪
サンロード・元町通り 月5万円〜8万円/坪
ハモニカ横丁 月10万円〜12万円/坪
もちろん、立地やフロア、建物の状態・希少性で異なりますので、あくまで目安です。
それでは、この家賃は、どのくらいの金額なのでしょうか。
少し計算してみたいと思います。
仮に、サンロードに20坪のお店を出すとします。ここでは保証金は考えません。家賃を月7万円/坪とします。すると、月額では140万円になります。お店の賃料負担率は、低い業種で3%~5%、高い業種では15%~20%くらいです。ここでは仮に飲食店を想定して、比率を10%とします。すると、儲けを出すために必要な月売上はざっと見積もって1400万円になります。
そして、営業日を月25日間、つまり平日1日休業とします。そうすると1日当たりに必要な売上は56万円。1人あたり1500円の売上を見込むと、1日あたり約330名/日の集客が必要です。仮に、お店の規模が20席クラスで、営業時間を11時〜22時の12時間営業とします。すると結果は「ほぼ毎時間、繁閑なく席が回転して、ようやく儲けがでる」前提となります。さらに吉祥寺では、家賃比率が高くなるでしょう。そして、さらにこの金額に保証金が上乗せされます。
吉祥寺の商業地価の急激な上昇
この計算をみると、吉祥寺のど真ん中で、個人が、飲食店のような「時間消費型」のお店を出店することが、いかに難しくリスクの高いことであるかがわかります。逆にいえば、吉祥寺に出店できるのは、原料の一括調達で「FL比率」等の原価を大きく下げられるファーストフードや、ドリンク比率が高い大手カフェ・チェーンなどに限られてくるでしょう。それが、吉祥寺にファーストフードや大手カフェチェーンが増えている理由です。それではなぜ、このような家賃になるのでしょうか。
そもそも、吉祥寺の家賃はどうなっているのか。その推移を見ながら原因を探ってみることにします。とはいえ、家賃のデータは公的に整備されていません。そこで、ここでは公示されている商業地の地価を見ていきたいと思います。この公示地価は固定資産税の算出に用いられており、一般的には「賃料と相関がある」と言われています。
ここでは「吉祥寺本町1−9ー12」つまりサンロード入り口近辺、つまり吉祥寺駅北口のほぼど真ん中の地価の変動を見てみます。
資料出典:全国公示地価データベース(編集部で加工)
いかがでしょうか。
まず気づくのが「2009年」の動き。この対前年変動率がマイナスになっています。これは皆さんもお気づきの通り「リーマンショック」、つまり2008年に発生した世界規模の同時株安の影響です。株安で信用収縮が起きて、不動産から一斉にお金が引き上げられました。そのため不動産価格が暴落したのは、未だ記憶に新しいところです。吉祥寺のど真ん中の商業地の地価も、例外なく5%強下がりました。
そして、もう1つ気づくのが「2013年」の動きです。
これ以降、対前年変動率がゼロからプラスに転じています。2012年後半からリーマンショックでどん底だった不動産市況がすこしずつ回復して、全国の都市部で地価上昇が目立ってきました。その頃の地価動向が見てとれます。そして直近の「2019年」の前年比をみると、回復どころか10%を超えていることがわかります
それでは、この状況をどう捉えれば良いのでしょうか。
同じスコアを他のエリアの数値と比べてみます。たとえば武蔵野市全体の2019年の前年比は6%、東京都全体では4%強に過ぎません。したがって、吉祥寺駅北口商業地の地価上昇が、いかに大きいかがわかります。しかも、これは年率の変動であること忘れないでください。地価そのもので比較すると、2019年の地価は、2013年のそれと比べて、なんと約1.5倍まで膨れ上がっています。そして先の通り、商業地地価の上昇は、一般的にお店の賃料上昇と相関があります。つまり、吉祥寺駅北口の店舗賃料は、近年、どんどん上昇していると言えるでしょう。
そして、この賃料上昇が、ファッション・アパレルを始め、出店のハードルを高め、既存店の退店を余儀なくしている、つまり「空き店舗を増やしている」一因です。
それでは、なぜ2013年以降、吉祥寺駅界隈の賃料が上がってしまったのでしょうか。もちろんリーマンショックからの景気の立ち直りもあるでしょう。ただ、本当にそれだけが理由なのでしょうか。
次回は、その原因をもう少し詳しく見ていきましょう。