第132回 吉祥寺の街なかに、なぜ「空き店舗」が!?その背景に迫る(5)





















吉祥寺駅近辺の店舗家賃


今回のBlog de 吉祥寺の特集は「吉祥寺の空き店舗」にフォーカスしています。ここまでは、空き店舗の背景を「売上」と「コスト」に分けて、前回からは店舗賃料に焦点をあてながら検証しています。

まず、前回までの流れを振り返ってみましょう。

吉祥寺駅北口近傍における2019年の公示地価は、2013年と比べて1.5倍。対前年上昇率も10%を超えています。この傾向は吉祥寺以外の主要商業地でも同じです。主な原因が、2013年以来のアベノミクス、つまり、大規模な金融政策の影響だからです。しかし、気をつけたいのはその傾向の大きさ。吉祥寺の地価上昇率は、東京都下エリアにおいて最も高いゾーンです。それは、一体なぜなのでしょうか。

それでは、今回は2013年以降、吉祥寺駅近辺の商業地地価が大幅に上がった理由について、仮説を踏まえて考えてみましょう。







吉祥寺のブランド化


写真出典:SUUMO住みたい街ランキング2020  https://suumo.jp/edit/sumi_machi/

「住みたい街ランキング」は、リクルート住まいカンパニーが年次で発表している「住んでみたい」と思う街のアンケートの結果ランキングです。「吉祥寺は住みたい街No1」と言われてきました。皆さんも耳にすることがあるのではないでしょうか。このアンケートが始まったのは2009年のこと。当初はそれほど注目されていなかったのですが、2012年にリクルートが分社化されて「住まいカンパニー」が立ち上がります。それ以降、毎年リリースされるようになり、注目を集めるようになりました。

これをみると、2009年から2017年まで、吉祥寺がほぼ毎年「1位」を独占していたことがわかります(2016年の1位は恵比寿。2011年は東日本大震災の影響でリリースなし)。2012年頃から吉祥寺が「住みたい街No1」としてメディアの注目を集めるようになります。まさに2012年以降は、「吉祥寺」が一気にブランド化した時期であると言えるでしょう。2018年以降はアンケートの方法が変わってしまったため、恵比寿や横浜が1位になっています。とはいえ、いまだに吉祥寺はランキング上位の常連エリアとしてメディアに取り上げられています。

賃料に集客力が追いついているか?


街が、ブランドとして有名になれば、街に来る人が増える、つまり街の集客力が高まります。では、どのくらい集客力が増えたのでしょうか。ここでは、JR吉祥寺駅の定期外乗降客数、つまり定期利用者以外で吉祥寺を訪れる人の数を見てみましょう。これによると2018年では1日平均約61000人となっています。同じく、2013年は約58000人ですので、1日あたり約3000人増えている計算になります。

それでは、この3000人のインパクトについて考えてみましょう。

仮に、3000人がランチと買い物で1日5000円のお金を吉祥寺で消費したと考えます。すると、1年間で約55億円の市場が広がった計算となります。時期を同じくして、吉祥寺では商業開発が進み、2010年にコピス吉祥寺、アトレ吉祥寺が開業、2013年にドン・キホーテ吉祥寺店、2014年にはユニクロ吉祥寺店などの施設が開業していきます。

吉祥寺駅 定期外の1日当たり乗降客数

 2012年 58,515人
 2013年 58,272人
 2014年 59,881人
 2015年 60,763人
 2016年 60,367人
 2017年 60,964人
 2018年 61,068人

商業地として集客力が高まれば、当然のことながら不動産価値も高まります。とはいえ、駅乗降客数ベースだと5%程度の(定期外)来街者増加に対して、地価上昇は約50%に達しています。明らかにマーケットの拡大に見合わない地価上昇、すなわち「住みたい街」ブランドに乗じた「バブル」の様相を呈している?と言えなくもありません。

吉祥寺の賃料相場はバブル?


それでは、仮に「バブル」とするならば、原因は何なのでしょうか。

その理由の一端は「ゼロ金利」と「過剰流動性」、つまり、まちづくり的に言えば、割高な賃料でも、来街客へのPRを織り込んだブランドショップ、市場のさらなる拡大を期待して「連想買い」するナショナルチェーン、宣伝目的の短期出店を戦略的に行うポップアップに近い事業者などが借り手となり、路面店を中心に空室が埋まっていくという「資産バブル」に近い状況が生じていたのかもしれません。

いずれの出店形態も、計画上の販売効率より将来への期待を過剰に折り込んだり、ブランドの宣伝コストと割り切ることで賃料負担率が過剰でも出店するのが特徴です。テナント側の視点でいえば、出店時に重視するのは、まず立地。吉祥寺はブランド立地で人気のエリア。出店したい物件があれば、保証金の積増しや賃借条件を引き上げてでも「取りに行く」というケースもあったのでないでしょうか。

そうなると、辛くなるのが既存店、特に資本力の大きくない小型店です。契約更改で賃料や保証金の負担に耐えきれなくなり泣く泣く退店を余儀なくされるケースもあったのではないでしょうか。実際に、吉祥寺本町の従業員10名未満、つまり個人店クラスの小規模のお店の数をみると、2007年と2014年間で約1/2まで減っています。




吉祥寺に出て・去っていったブランド

現に、吉祥寺に出店した後に、短期で退店していった有名ショップも数多くあります。

たとえば、2013年の出来事を振り返ってみましょう。

当時、吉祥寺に出店して話題となったのは「ディッキーズ」の日本初単独店、「アルマーニエクスチェンジ」、「フランフラン」の新業態「ラグ バイ フランフラン」、「クロコダイルトーキョー」などのファッション・アパレル店舗、スイーツ系では「アーノルド」「オリジナルパンケーキハウス」「ヨッコズフレンチトーストカフェ」などでした。

皆さんも記憶に新しいのではないでしょうか。

しかし、ここで挙げた店舗のうち、丸井吉祥寺店1階に出店している「オリジナルパンケーキハウス」を除いて、現在は撤退・退店しています。おそらく契約期間満了前に中途解約し、退店したブランドもあったのではないでしょうか。

ということで

あらためて、吉祥寺の空き店舗、今後、どうなっていくのでしょう。

次回は、今後想定される吉祥寺の街の変化と共に、展望を考えていきます。

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