第133回 吉祥寺の街なかに、なぜ「空き店舗」が!?その背景に迫る(6)



吉祥寺の街はどうなっていくのか


今回のBlog de 吉祥寺の特集は「吉祥寺の空き店舗」にフォーカスしています。前々回からは店舗賃料に焦点をあてて、その水準を詳しく分析してみました。

不動産のサイクルは7〜10年と言われます。上がりもすれば下がりもする。2020年はまさにコロナショックの年です。コロナの影響によってヒトやモノの移動が大きく制限されています。その痛手を大きく受けるのは飲食業やリアル(店舗)の小売店、観光業と言われており、その結果、不動産当たりの収益が落ち込むことになります。そして、それは地価の押し下げ圧力になります。つまり、コロナを機に企業による吉祥寺での店舗開発意欲が減退すれば、バブルが縮み、商業地の価格上昇は鈍化することでしょう。

賃料を見積もるとき、多くの場合は「収益還元法」や「事例比較法」が使われます。収益還元法とは、つまりその土地でどのくらい儲かるのか、を基礎とした賃料です。収益への期待が高ければ、高めの賃料が設定されます。そして期待を加味にして見積もられた新しい不動産の周辺の賃料は「事例比較」法に基づいて高めに釣られる傾向があります。したがって、過度な期待が落ち着けば、吉祥寺の賃料も落ち着いてくるでしょう。

また、2020年は、リーマンショック余波から2012年に地価が反転上昇して以来、ちょうど8年目。あたま打ちの「頃合い」かもしれません。

それでは、これから吉祥寺の「商圏」、つまり「来街者が足を運ぶエリア」で何が起きているのかを確認しながら、今後の吉祥寺と空き店舗について考えていきましょう。

写真出典:武蔵野市広報







今後、吉祥寺で増えるお店は?


特集の前半では「通販サイト(EC)」の影響について、後半は「高止まりする賃料」の問題を考察してきました。これらを踏まえて、今後、吉祥寺で増えてくるであろうお店について整理しておきましょう。まず、一般的にEC(Eコマース)に対して抵抗力のあるお店は増えてくると言えます。たとえば食品、ドラッグストア、携帯電話、ペットショップなどです。また一方で、賃料負担力があり、高めの店舗賃料にも耐えうるお店も同様です。具体的には、専門店、アミューズメント、紳士服、家具・家電、美容室と言われています。

後者のケースでいえば、2017年に東急百貨店吉祥寺店に進出した大手家具チェーンの「ニトリ」が記憶に新しいところです。東急百貨店は、今後の店舗戦略として、他の専門業態と融合しながら開発を進める方針を示しています。その一貫でしょうか、ニトリは百貨店のワンフロアをまるごと借り切るセミクロス型で出店しました。

また、吉祥寺の街を見回してみると、家具チェーン以外にも、ドラッグストアを始め、携帯電話、ペットショップ、そしてアミューズメント、紳士服、家電、美容室など、EC抵抗力があって、かつ賃料負担力がある店舗をよく見かけることに気づきます。

今後の吉祥寺には、必然的に、このような通販サイト(EC)抵抗力があり、かつ賃料負担力の高いお店が増えていくことなるでしょう。

治外法権?のハモニカ横丁の存在

それでは、そのようなお店で吉祥寺は埋め尽くされてしまうのでしょうか

実は吉祥寺には「治外法権的」、つまり吉祥寺で起きている開発の波に呑まれていないエリアがあります。それが皆さんご存知、吉祥寺駅北口駅前に広がるハモニカ横丁です。Blog de 吉祥寺でも過去に何度か特集していますね。


■昭和38年吉祥寺駅北口都市計画図

さて、ハモニカ横丁とは、吉祥寺駅北口駅前の吉祥寺本町1丁目エリアに広がる3000㎡程度の敷地に広がる約100店舗の商店群です。正式名称は「吉祥寺北口駅前商店街」です。

ここの店舗賃料は、本特集前半で取り上げた通り月坪10万円を超えて、吉祥寺の中でも最高水準でした。

それでは、なぜハモニカ横丁の賃料は高いのでしょうか。

それを考える前に、まずは、このハモニカ横丁エリアの歴史を振り返ってみましょう。時は第二次大戦前の昭和19年にさかのぼります。当時の吉祥寺近傍には、東洋最大のエンジン工場をもち戦闘機ゼロ戦などのエンジン製作を担った中島飛行機武蔵製作所がありました。米軍の戦略爆撃機B29がマリアナ諸島サイパン経由で飛来して、中島飛行機に対する日本初の空襲爆撃に踏み切ったのは昭和19年11月のこと。そこで都市空襲による火災惨事を回避するため、吉祥寺駅北口駅前の商店は防火用地を目的として閉鎖され、強制的に転地させられます。

戦後、その空地に立ち上がった闇市がハモニカ横丁の原点です。

ほとんどの地権者は、吉祥寺の大地主である「月窓寺」さんです。かつて昭和31年に武蔵野市議会が「吉祥寺駅前広場年計画調査特別委員会」を設置、吉祥寺駅北口の再開発本格化に向けたタイミングで正式に登記され、転貸される形で商店街が形成されています。

ただし、1992年に借地借家法が改正されたとはいえ、旧法時の契約による土地の賃借は「土地を貸したら戻ってこないと思え」という程、借地人の権利が強く保護されています。かつ、借地上の建物保有者は、借地人の承諾を得ることなく、第三者に建物を貸すことができます。そのようにして、借地権および借家営業などの利権関係がわかりにくくなっていきます。

過去、利権整理の大きなタイミングであった、昭和48年の吉祥寺駅再開発事業における共同組合化による再開発計画も合意に至らず、今に至ってしまっています。



写真:静かな佇まいの月窓寺

したがって、ハモニカ横丁の店舗賃料は地代の他に、借地権者や建物所有者への支払いが混在していると言えるでしょう。さらに駅前、かつ物件の希少性もあって店舗賃料が高止まりする一因になっています。ただし店舗としては旗竿地・袋地沿いで間口も狭く、規模を求める大手チェーンによる開発も難しいことから、個人店が多く軒を連ねているのが特徴です。


吉祥寺の近隣商圏の変化

さて、吉祥寺の空き店舗を考えていく上で、避けて通れないのが吉祥寺の商圏のことです。
商圏とはお客さんが来訪するエリアのことを指します。

結論からいえば、吉祥寺は多摩地区随一の商圏の広さを持っています。ただその一方で、吉祥寺の商業の強さは、広域の商圏のみにあらず、実は、街のすぐ裏手に「可処分所得の高く、消費性向の高い住民層」のエリアが広がっている点にあります。具体的には吉祥寺南町・東町・北町を始めとする武蔵野市街のことです。2019年版 個人所得指標(政府刊行物)によると武蔵野市の一人当たり所得は全国で9位、高級住宅地で有名な兵庫県芦屋市の次です。これは東京都の品川、杉並、新宿、中野より高い順位となっています。

このような豊かな経済力を誇る後背地が、これまでの吉祥寺の商業を支えてきました。しかし、この商圏に変化の波が押し寄せています。

その変化とは「高齢化」です。

その変化を考えていくために、まずはデータを見ることにしましょう。



このデータは吉祥寺の周辺で「65歳以上の親族のみ居住」、つまりシニア・シルバー世代のお年寄り住まいの世帯の割合が表されています。赤色の薄いエリアが比率が低く、濃いと高くなります。したがって濃いエリアは高齢者のみ世帯が多いエリアです。メッシュ(地図の分け方)は町丁目単位です。ちょうど地図の中央部に吉祥寺の駅があるのがわかるでしょう。

次に、同じく2015年のデータを見てみましょう。



2000年と2015年を比較すると、2015年の方が、赤が全体的に濃くなっています。つまり高齢者のみの世帯が増えていることがわかります。

このことは、何を意味しているのでしょうか。

2017年の家計調査をみると、世帯の家計支出が最も増えるのは40〜50代です。教育費なども然りですが、ファッションや一般消費支出が最も高いのも、実はこの層です。こういった層を多く後背地に抱える街は賑わい、そして商業が発展します。しかし60代になると消費支出や、その元となる可処分所得はガクッと20万円近く減ってしまいます。その結果、消費支出も一気に絞り込まれてしまいます。

つまり、吉祥寺の商圏は65歳以上、つまりこれまで消費支出の中核を担ってきた世代の高齢化が進んでいる状況ということができるでしょう。

武蔵野市の人口は、かつて昭和30年後半〜50年代にかけて分譲マンション建設が始まり、一気に増加しました。仮に、昭和50年のことを考えるならば、今の70歳はその頃は25歳です。その頃に、武蔵野市に転居してきた世代こそ、これまでの吉祥寺の百貨店を始めとする商業全般を支えてきた層といえるでしょう。そしてその層の高齢化が進んでおり、65歳を超えて、さらに後期高齢者に差し掛かりつつあるのが現状です。

ファミリー持ち家の増加


一方でプラスの材料もあります。もう1つのデータを見てみることにしましょう。



このデータは2000年の吉祥寺の周辺の持ち家比率のデータです。同じように2000年と2015年を比較してみましょう。


2015年の方が、吉祥寺から離れたエリアで赤い色が濃くなっている、つまり持ち家比率が上がっているのがわかります。事業所や学校が移転した跡地の開発が進み、吉祥寺周縁部に分譲住宅やマンションも増えていることがわかります。

武蔵野市も転入出人口上の特徴として、10〜20代を吉祥寺周辺で過ごした層が、30代で西東京や小平方面に転出していく傾向がみられます。その穴を埋めるかのように、新しいファミリー、つまり30代と5歳未満の幼児の世帯が入ってきています。実は、武蔵野市の住宅戸数は2008年から2013年の5年間で約 2100 戸増加しています。彼らは持ち家ということもあり、吉祥寺と末永く関わりをもつであろう世帯といえるでしょう。

こういった層にフィットしている店舗が、ドラッグストアや食品などの生活必需品の店舗です。当然、ファッションは安価でカジュアル寄り。ここを狙って「ユニクロ」が7フロア約800坪一棟借りで出店してきたと言えます。


今後は駅南口も注目

ということで、今回の特集は「吉祥寺の空き店舗」を特集してきました。ここまで分析した内容をみて、皆さんは吉祥寺の将来像についてどのように感じましたか?

正直申し上げると、吉祥寺の空き店舗の問題、根本的な解決はなかなか難しいように思えます。ただし、繰り返しになりますが不動産のサイクルは7〜8年と言われています。高止まりして「バブル」の気配すらあった店舗賃料は、これからは少しずつ落ち着きを取り戻し適正水準に落ち着いてくるでしょう。

それでは、その時の吉祥寺のお店は、どのような構成になっていくのでしょうか。

今後しばらくはファミリー層を始めとして幅広い層を対象にしたドラッグストアなどの生活必需品を始めとする「EC抵抗力があり」「賃料負担力のある」お店の進出は止まらないでしょう。吉祥寺の空き店舗は、そのようなお店で埋まっていくことになります。商業を軸にまちづくりを考えるならば、これは如何ともし難いところではないでしょうか。

そして今後の北口側のトピックは、ハモニカ横丁です。

ハモニカ横丁の魅力は、狭く年季の入った建物が軒を寄せ合って「横丁」を形成しているところにあります。しかし建物の老朽化はいかんともし難いものがあります。今後の老朽化を起点として「再開発」構想が再び浮上して具体化するのかどうか。仮に、再開発においてハモニカ横丁の魅力を損なわないようにするならば、横丁の袋地や旗竿立地における建て替え要件の緩和制度を活用しながら計画を立てる必要があります。

ただし、今の横丁の雰囲気を維持しようとすればするほど、再開発としては小粒とならざるをえません。そうなると全国の中心市街地再開発で利害関係の整理で登場してくるようなデベロッパーは腰を上げづらくなります。つまり、当事者が主体的に行政や専門家の力を借りながら、自らの力で問題解決していく必要性が出てきます。




また、今回の特集からはハズレますが、吉祥寺駅南口の再開発にも注目です。

それによって吉祥寺駅の来街者の回遊重心が、生活者主軸の北側から、井の頭公園を中心とする南側へと大きく変化する可能性もあります。しかし現状は「まだまだ」の状況。武蔵野都市計画道路3・3・14号線の南口駅前広場約1900㎡の用地買収率は、未だに6割に届いていません。事業進捗率も6〜7割という状況。現在、都市計画決定に向けて首都圏不燃建築公社さんを中心に調整活動が進められています。

ということで、今回の「吉祥寺の空き店舗」特集はこれで終わりです。

Blog de 吉祥寺では、今後も吉祥寺の空き店舗の動向に注目してまいります。

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